TACOMA FUJI RECORDS, PANCAKE KILLAS LS
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TACOMA FUJI RECORDS, PANCAKE KILLAS LS

¥9,350 税込

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  • WHITE, L

  • WHITE, XL

designed by Ryohei Kazumi / text by Takaaki Akashi ENTERTAINMENTを主催する鬼才数見亮平の新作Tシャツ、PANCAKE KILLA!  白はロングスリーブ、杢グレイはTシャツとなります。 COTTON 100% MADE IN JAPAN SIZE L, 身幅 56cm 身丈 70cm 袖丈 62cm XL, 身幅 60cm 身丈 73cm 袖丈 63cm 添付した赤石隆明氏の手がけるストーリーも傑作です。 お時間のある方は是非目を通してみてください。 Pancake Killa / son あれから久しく乗っていなかった電車に乗った。満員の時間帯だが、車内は余裕が見 られる。最近はディスプレイの前で殆ど解決してしまうので、生身の人間が乗り合う 電車内がなんだか滑稽に見えた。前に座る女性の鞄に猿のキーホルダーがついてい る。こんなどうでもいいことに目が向いてしまう。 仕事のミーティングを会ってしたいと言われ、リモートで良いじゃないかと思った が、年配の依頼主は頑なだった。くたびれた喫茶店で待ち合わせ、依頼を受けてそそ くさと退散する。なんてことない内容だったが、依頼主のネクタイがチンパンジーの 柄で、お茶目ですねと、つい言ってしまった。嬉しそうに微笑むと孫からプレゼント されたと教えてくれた。 外出してみると世の中のどうでも良いことがいちいち気になって、狭い部屋の中で活 動を疎かにしていた脳が騒ぎ出したのだった。おかげで古い友人が脳裏に浮かび、閑 散とした大通りで信号待ちの傍、笑みが溢れた。 モニカ・キラ。彼女との思い出が蘇る。 もう随分と昔になるが、私がZAAPS[1]というバンドと、仕事をしていた頃にモニカと 出会った。私たちが入り浸っていたバーの常連だった彼女は、長年勤めていた探偵事 務所を辞め、休職中の飲んだくれだった。 モニカは大学卒業後、弁護士事務所でパラリーガル[2]として働き出し、優秀ではあっ たが、デスクワークに満足できず、数年で退社し、その後は探偵事務所の調査員とし て勤務するようになったそうだ。バーで会えばそんな身の上話をして、私たちは直ぐ に打ち解けた。辞めたとはいえ、仕事内容をベラベラと喋る、およそ守秘義務を守る 気のない声のデカい女性。それが彼女に抱いた私の第一印象だった。とはいえ、話の 組み立て方が巧みで頭の回転が恐ろしく早く、一度話した内容を忘れることはなかっ たし、するりと人の懐に入り込む愛嬌から、彼女が優秀な調査員であったというのは 確かだった。 モニカが語ったエピソードの中で最も印象深い話が、大富豪のペットであるチンパン ジーのクロノスくんを巡る騒動についてだった。クロノスくんは5歳のオスで、ある 日、忽然と姿を消し、捜索届を出すも見つからず、身代金目当ての誘拐の要求が来る こともなかった。全くの音沙汰なしに打つ手がなくなり、モニカの探偵事務所に捜索 依頼が舞い込んできたのだった。 クロノスくんは家族同然で大層大事にされ、主人や使用人にも懐いていたことから、 身内の犯行に焦点を絞り調査した結果、クロノスくんを愛してしまった世話係の女 性、レィア・オルドアが犯人であることが発覚する。クロノスくんはレィアの家で健 康な状態のまま無事発見され、誘拐事件としてレィアは逮捕された。しかし、事件は ここで終わらなかった。なんとレィアはクロノスくんの精子と自分の卵子を人工授精 させ、受精卵を自分の子宮で育てていたことが発覚した。 チンパンジーのオスは歳を取るごとに気性が荒くなり、人を襲うこともあるそう だ。[3]人間同様、チンパンジーは同族殺しを行う。クロノスくんも使用人たちに怪我 を負わせることがあったそうで、施設での飼育を考えざるを得ない状況へと進みつつ あったことから、クロノスくんを深く愛し、離れたくないレィアが犯行に及んだので はないかと回想していた。 モニカは酔いが回るとこの話を何度もした。いつもしみじみと忘れてしまわないよう に。しかし、レィアとクロノスくん、そしてお腹の子がどうなったか、その結末につ いては結局教えてはくれなかった。 貯金を食いつぶし、いつまでも酒浸りでいる彼女にZAAPSのエオが音楽を勧めたのは いつのことだったか。のせられた彼女はどこからかギターを調達してきてカントリー ミュージックを始めた。そこからトントン拍子で話は進み、Pancake Killaと名乗って バーで演奏することもあった。常連たちは面白がってモニカに出資し、4曲入りのミ ニアルバムを作ったのだった。バンドには私も参加させられたのを覚えてい る。Pancake Killa のデビューミニアルバム『son』は、今も私の手元にある。CD-Rに は手書きのタイトルと、ZAAPSのオアが撮影したバーで戯けるモニカたちの写真 にSonのタイトルがかぶった写真がアートワークとして差し込まれている。 Pancake Killa / Son 1.Blue sky 2.Witchcraft 3.Son 4.Afterlife アルバムが完成した日、バーで常連たちに嬉しそうにアルバムをプレゼントしていた 彼女が、探偵業を辞めたのはクロノスくん事件が元であることを教えてくれた。 モニカと会ったのはそれが最後だった。 Pancake Killaの名をそれから聞くことはなかった。それっきり音楽もやめてしまった のだろうか。移気な彼女は今、何処で何をしているのだろう。今日、外に出なければ モニカについて思い出すこともなかった。帰りの電車は相変わらずがらんとしてい る。車窓から宇宙服を着たチンパンジーの野外広告がビルの隙間に現れて消えていっ た。 [1]ZAAPSはエオとオアの二人組ガールズバンド。ツインドラムという変則的なスタイ ルで活動。セカンドアルバム『Kiss Become Romantic』発売後に解散が発表された [2] パラリーガル(paralegal)は、弁護士の監督の下で定型的・限定的な法律業務を遂 行することによって弁護士の業務を補助する者 [3]合衆国、コネティカット州の個人宅で飼われていたチン